AIを「どう使うか」の前に ― 知らないと危ない「リスク」の話

はじめに

先日、ある方が言っていた話に、少なからずショックを受けました。
その方がワークショップの告知用にと、自身の制作物の写真をある運営に渡したところ、告知画像としてAIで加工され、まったく別の姿に改変されて公開されてしまったというのです。

その方は、そのような改変を許可した覚えはないとのことでした。これは、著作者人格権(同一性保持権)と翻案権の侵害にあたる可能性が高いケースです。作品を勝手に改変されない権利、そして原作をもとに別の創作物を作られない権利は、AIを使うか使わないかに関わらず、創作物を扱ううえでの大前提です。

さらに気になったのは、運営側の人間ですら、こうした基本的な権利を理解していないことが少なくない、という点です。悪意があったわけではなく、「AIで少し手を加えただけ」という感覚だったのかもしれません。しかし、知らなかったでは済まされないのが、権利の世界です。

「AIが出力した」ものは、自分に責任はない?

似たような話は、記事制作の現場でも起きています。AIに記事を書かせたところ、食品の効果効能について踏み込んだ表現が含まれてしまい、景品表示法などの規制に抵触するケースがあると聞きます。

AIに書かせる側が、AIの出力を過信しすぎているのだと思います。AIは滑らかな文章を生成してくれますが、その内容が法律に触れるかどうかまでは判断してくれません。そして何より見落とされがちなのが、たとえAIが生成した文章であっても、それを世に出すと判断した時点で、文責は書かせた本人にあるという自覚です。

これは、10年前に問題となった「WELQ」の一件を思い起こさせます。医療・健康情報を扱うキュレーションサイトが、専門知識を持たない書き手に大量の記事を作らせ、不正確な情報や無断転載が横行していたことが発覚し、社会問題となりました。当時はAIではなく人間の書き手による「量産」でしたが、構造は今とまったく変わりません。「誰が、どんな知識と責任のもとに書いたか」が置き去りにされたまま、情報だけが独り歩きしてしまうという点です。AIは、この「量産」のスピードと規模を、当時とは比べ物にならないレベルまで引き上げてしまいました。

実は、私のところにも、AIで記事を量産し、集客につなげるという趣旨の広告が届いたことがあります。効率化や成果を強調する内容ではありましたが、その先にあるこうしたリスクに触れているものは、見たことがありません。

AIの「メリット」ばかりが語られる違和感

AIをどう活用するか、というテーマのセミナーは、今やあちこちで開催されています。一方で、AIを使うことに伴うリスクを正面から検討するセミナーは、ほとんど見かけません。

これは、ある意味当然のことかもしれません。リスクを語るには、その前提となる知識、つまり著作権や景品表示法をはじめとする各種の権利・法律を理解している必要があるからです。AI活用の即効性や華やかさを語ることに比べ、リスクを語ることは地味で、一定の専門性も求められます。

一方で、私自身、行政書士としての活動を始めてしばらく経った頃に長浜市から著作権に関するセミナーのご依頼をいただいたことがあります。平日の午前中にも関わらず、多くの方にご参加いただき、また終了後に寄せられた質問の数を通じて、著作権の正しいリスクを理解したいという方のニーズは、想像していた以上に高いのだと実感しました。

2024年 長浜市市民活躍課主催「「学びの4レンチャン」より当職による著作権講座

リスクを語れる場を、これからも

NCUでは、先日の長濱創造博の事前説明会のセミナーにて、AIで音楽やイラストを生成する際のリスクについてお話しさせていただきました。今後も、NCUはAI活用の「その先」にあるリスクを検討する機会を、コラムやセミナーを通じて重ねていきたいと思います。

便利さの裏側にあるものを知ったうえで使うことと、知らずに使ってしまうことの間には、大きな差があります。その差を埋める一助になれれば、と考えています。

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